Speculative design
未来をデザインする
想像できない未来は解けない
現実を起点としない
問いを生み出すデザイン
ここからは、「デザイン思考」について考えていきます。自動車産業の歴史を例に考えてみましょう。車がまだ世の中にない時代であれば、車を作れば必ず売れます。しかし、一度世に出してしまえば、他の会社もどんどん車をつくるようになります。すると次は、どう差別化するかを考えなければなりません。より売れる車をつくるために、ユーザーに「何が必要か」や「どこをどう改善すべきか」を聞いて、次の車をつくっていきます。これがデザイン思考です。単純に言えば、メーカー(テクノロジー)中心ではなく、ユーザー中心で発想するということです。 「ユーザーに聞く」ということはつまり、問題やニーズを発見するということです。そこからアイディアを出し、プロトタイプをつくり、使ってもらって、また聞くことの繰り返し。つまり、デザイン思考とは改善の手段なのです。ところが日本では今、多くの人がデザイン思考をイノベーションの手法と捉えてしまっているのです。
スペキュラティブデザインについて考えていくためには、こういったデザインやデザイン思考が前提になります。
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「デザイン=問題解決のツール」というところから一歩踏み込んで、実現したい未来までも自分で考え出し、そのために必要なものを逆算していく。これが、スペキュラティブデザインの考え方なのです。
スペキュラティブデザインの考え方では、まず世界がこのまま進んでいっただけでは起こり得ないような好ましい未来(Preferable future)のシナリオを設定します。そして、その未来を実現するために解決すべき課題を顕在化させ、議論を巻き起こす「問題提起のツール」として、デザインを捉えています。
Speculative Designのザックリとした説明として、「未来をデザインすること」という説明ができますが、そもそも未来とは何かから考えましょう。授業で示された表現を紹介します。 つかみどころのない未来はたしかにフィクションと言えるでしょう。でも、そんなフィクションを語り合うことで、少しはより良い未来を生み出せるようになるのではないでしょうか。(ここでの「より良い」は誰にとっての「より良い」なのかという議論もありますが、今回は割愛します。)これがSpeculative Designに取り組む意味です。 SFの目的が「Entertainment」であるのに対して、Speculative Designでは「Statement」として未来を考えます。SFでは見る人が「面白かったね」という感想を抱けば成功かもしれません。一方、Speculative Designでは見る人に「こんな未来が実現したら、自分はどうするだろう?」といった疑問を持ってもらうことを目指します また、同じデザインの名を冠した「デザイン思考」との違いを考えてみましょう。デザイン思考では、ユーザーのニーズをくみ取って解決策を提示します。一方、Speculative Designでは、デザイナー自身の問題意識からスタートして、未来に起こりうる現象(問題)を現代に出現させます。"Do not try to find solutions"や"Not solve, but invent problems"とアドバイスされるように、問題解決ではなく問題提起をする点が特徴です。 We cannot work for a betterment we cannot imagine
Speculative Designでも、同様のプロセスを辿ります。この時の軸は、課題発見と課題解決の代わりに、現在と未来の軸になります。1. 未来を予感させるシグナルを集める(現在×具体) 2. 未来に主流となりそうなシグナルを決める(現在×抽象) 3. 起こり得るシナリオを複数考える(未来×抽象) 4. そのシナリオを具現化して、現代に出現させる(未来×具体)。
デザイン思考は、現在と過去のユーザーに焦点を当て、未来に向けられるアプローチはわずかである。したがって、未来に向けた解決策を生み出すには不十分である。
一方、スペキュラティブ・デザインは、現時点ではまだその影響が表れていない未来の問題に取り組むものといえる。 スペキュラティブデザインとは、クリティカルデザインとサイエンスフィクションSFの両方の要素を取り入れた、これからの未来社会がどう在るべきかを深く洞察し、あり得るかもしれない世界の在り方を予測するデザイン手法です。英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートで発祥したこの概念は、「未来はこうなると予測される」または「未来はこうあるべきだ」という問題解決型の将来像を提示するのではなく、「未来はこうもありえるのではないか」という臆測を提示し、問いを創造するデザインの方法論です。このデザインの特徴は、未来を予測することを目的とするのではなく、「私たちに未来について考えさせる(speculate)ことでより良い世界にする」ことにあります。 https://scrapbox.io/files/65bdfd4f01edd80024c648d1.png